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「寒い?温度高くするか」 室内の温度を気にする死神は、俺を抱いたままエアコンのリモコンを手に取り操作する。 「大丈夫。くっついてれば温かい」 部屋の温度に問題はない。いつも快適だ。しかし言うなれば問題はこのあとにある。 俺を抱き締める死神の腕に力が加わり、それが苦しい程になると…1、2、3、4、5。 死神はすぐに力を抜いて、俺の体に緩く腕を絡ませる。 今日も約5秒。 そして、それはここでも…。 「正ちゃん言って?寝る前の好き」 「好きだよ」 これをあと4回繰り返すと、死神はそれ以上は言わなくなる。代わりにキスをくれるのだ。 苦しいほどに抱き締めるのも約5秒、好きだと言うのも大抵5回。 この5のルールに気づいたのはつい最近だ。そして気づくと気になる。それが意識的になのか、もしそうならばいつから始まったのか。 始まりの日すら分からない。徐々に変わっていった死神の態度に、俺もまた徐々に気づき始めた。 そして、気づいたことはもう一つある。先程説明した5のルールだが、実はこれに縛られない唯一の時間というものがある。 それが今。死神が寝入ったあとだ。 「正ちゃん…ちょっと、苦し…っ」 死神は寝入るととにかくしつこい。抱かえるように抱き締めたまま体を乗せてくる。なんとか寝返りを打っても、すぐにまた羽交い締め状態にされる。 つまりこういうことだ。眠っている間もしつこかった死神が、いつの間にやら眠っている間だけしつこくなっていたのだ。 「ほんと、寝てるときだけ。起きてるときに少し回したら…」 そうヒソヒソと呟き、上にのし掛かかっている死神に抱きつく。文句は言ってみても、この重さとしつこさが堪らなく好きなのだ。 思えば出会った頃の死神は、これくらい清々するほどしつこかった気がする。 俺はいつからか温かい腕の中で、死神が寝入るのを待つようになった。 幸せだからもう少し味わっていたいのに、幸せだとどうしても眠くなってしまう。そんなちょっとしたジレンマを感じながら、今日もまた眠りにつくのだった。
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