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……………
やがて痛めた拳から、血がボタボタと床に落ちた。
壁を殴る事を止めたラスベルは、ぐったりと無気力になっていた。
「気が済んだか?」
一本の剣を磨き終えたレオナルドは、それを握って息子の前へと歩み寄る。
「……………母さんの事は、お前のせいではない」
レオナルドはその剣を、ラスベルの胸に平行にして差し出した。
「…………えっ?」
呆けていたラスベルは、顔を上げて父親を見る。
そこには母が亡くなる前の、穏やかな父親の顔があった。
「首都に行くなら、この剣を持っていくがいい。そして成長したと云うのなら、自分の力で、この国の全てを見るがいい」
レオナルドは剣を手渡すと、彼に背中を向けて、自室へと戻ろうと歩き始めた。
「ま、待って!」
そんな父親の後ろ姿を眺めたラスベルは、慌てて彼を呼び止める。
だがレオナルドは、真意を語る事はなく、振り向いて息子に言った。
「……強くなったな。後は自分で考えろ。そして……私はお前を愛している」
「と、父さん……」
レオナルドはそれだけ伝えると、自室へと入って行った。
後に残されたラスベルは、暫く父親の自室を呆然と眺めたが、やがて父から渡された剣を強く握り締め、深々と頭を下げた。
そしてラスベルは下げた頭を、暫く上げる事は無かった。
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