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「僕は、本当は嫌な奴なんだ」
震える手でその紙切れを摘まんで、ホトトギスの話で目を赤くしている千尋に渡した。
後悔を分けるとかの気分ではなくて、気の効いた責めの言葉を彼女が口にする事を期待しただけ。
けれども、彼女は事情を知らない。
黙ってその、嫌な文字を読むことしかしない。
僕は、直くんの瓶も開けなければならない。
耳鳴りの理由は、おそらく、その中にあるのだから。
茶色の瓶から取り出した直くんの手紙は、綺麗に4つにたたんである。
丁寧な文字。
―――ぼくの幸せ全ては、裕君にあげて下さい――
力が抜けた。
しゃがんだ形のまま、土臭い地面に転がった。
そうしたら‥次から次へと涙が湧いてくる。
仙台の夜学に進んだ直くんと、連絡がとれなくなって久しい。
それは、おそらくは僕のせいだ。
「裕くん‥泣くのは全然構わないけれど、お願い‥それ以上は転がらないで‥」
千尋の言葉の理由は、とても簡単である。
この場所にも、小さい黄色い花が、ぽつんぽつんと咲いているから。
完
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