黄色い花

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  緩やかな実家の裏山の坂道。 そこはもう手入れがされていないから、歩く度に靴底が枯れ枝などを踏んで、晴れた空に乾いた音だけが響く。 「裕くんストップ!」 僕の動きを止めたあと、千尋がまたしゃがんだ。 さっき、蟻の行列を見つけた時もそうしたし、その前に団子虫を見たときにもそうした。 「ほらぁ、足に踏まれないように、もっともっと咲がないどない。元気にずっどずっど大きくだぞい」 保育園の良い先生だ。誰もが見逃しがちな、小さな黄色い花をしゃがんで見ている。 千尋の長靴はお袋から借りて、僕の長靴は親父から借りている。 小山の中程であるが、水が斜面から染み出す所だ。 ここに昔は、猫のひたいほどの畑があったのだけれど、今は背丈のある雑草が生い茂っている。 「すっかりお袋の口調が移っちゃったのな」 千尋を実家に連れて来て、今日で4日め。 親戚や旧友に挨拶まわりを終えて、明日の昼前にはこの地を発つ予定。 晴れた日で良かった。 9月も、もうすぐで終わる。  
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