黄色い花

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  中腹の梅の木には思い出がある。 おそらく僕は、小学校1年生だった。その木に登って、降りる事が出来なくなった。 幹にしがみついた腕の力が無くなる頃に、ようやく思い出したように、泣きながら助けを求めた。 蝉がうるさい季節だった。太陽がとても眩しかった。 僕の声を聞きつけ、山道を駆け上がって来てくれたのは、いとこの直くんである。 直くんは、長い腕を伸ばすと、梅の木の幹に蝉のようにしがみついていた僕を、優しく草の上に降ろしてくれた。 僕が見上げた直くんの顔は、眩しい太陽の光だけをを背にしていた。 「裕ちゃん‥‥」 僕はどうしてか、直くんの言葉から逃げた。 駆け下る坂道の途中、何度か転んだ。 この土地を離れて、ずいぶんと年月は過ぎている。 そして何故だか、記憶の中の直くんの顔はぼやけたままだ。 いつもいつも夏の太陽を背にして、僕に何かを話し掛けようとしている。  
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