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故郷はなだらかな山が続きその間を小川が縫い、そのまわりを小さい田んぼと、これもまた小さな畑が取り巻いている。
今は路線バスも廃止された道を、忘れた頃に乗用車が通る。
「良い景色ねぇ」
そうだろうか? 以前はもう少し人の姿が見られたものだし、放課後の時間は山あいに子供の遊ぶ声が響いていたはずだ。
「バス停の標識がそのまま在るのね」
そう、そのままある。
東京から親父に連れられて来た直くんは、あそこのバス停に立った日から、この地での生活を始めた。
直くんの父親つまりは親父の弟は、東京で小さな会社を経営していたらしい。
けれどもバブル経済が弾けた後、直くんの父母は多額の借金を抱えてどこかへ消えてしまった。
1人取り残された直くんは、親父に引き取られて、僕の家に来たらしい。
直くんは兄弟のいない僕に優しくしてくれた。
僕の我が儘をすべてきいてくれたような気がする。
そう、とても優しかった。
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