黄色い花

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  北国である。 夏に置いて行かれた山々である。 ――ボットブッツァゲダゾウ― 「嫌な鳴き声だよ‥‥」 「え?」 伸び放題になった桑の木の枝を掻き分けて進むと、半ば枯れた太い幹があった。 小さかった時の僕が、目印の為に刺した玩具の剣が、色褪せた姿で土に刺さっている。 足元に転がっている手頃な枯れ枝を握り、僕は剣を土から抜いて捨てると、それが指し示していた物を探した。 枝を突き立て、黒い土を掘る。 ――ボットブッツァゲダゾウ 「お袋の昔話の持ちネタは1つでさ、何度もこの話を聞かされた」 「ねぇ、どんな話なの?」 土を掘り返す僕の隣に、千尋は行儀良くしゃがんでいる。 「この鳴き声の主の話さ」 「ホトトギス?」 もうじきあれに辿り着く。 寒くなる頃に結婚をするこの人には、僕の嫌な部分を見せようと思った。 「むかしむかしの話だがんない‥‥」 お袋の決まった語り出しである。  
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