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「怒ってほしかった?」
「泣いてほしかった?」
感情のつかめない声が、あたしの頭を麻痺させる。
ただひとつ、心を除いて。
苦しいよ…苦しいよ…
どうしてこんなに、苦しいの?
わかんないまま、あたしの腕は、荒々しくさっしーにぶつかる。
ねえ、あたしのこと、好きなんじゃないの?
「うん…好き、だよ」
嘘つき。
じゃあなんで、平然としてられるの?
「あたしは、嫌い!」
あたし以外に、ふらふらしてるさっしーなんか、嫌い。
あたしに困ってないさっしーなんか、大嫌い。
「だから、付き合うことにした」
は?
「なんでって、好きだから」
何言ってんの?
さっきその口で、あたしのこと好きって言ったじゃん。
あ、外れた。
なんで!なんで!なんで!なんで…
あたしの手のひらが、さっしーを撃つ。
自分勝手に、撃つ。
さっしーはただ、あたしの暴走を受け止めていた。
乾いた空気に、さっしーを撃つ音だけが響く。
もう、やだ…
「 」
え?
声は届かなかった。
興奮状態の私に、その声は届かなかった。
けど。
かろうじて映った唇の動きが、あたしに伝わった。
"う そ だ よ" ?
馬鹿みたいにさっしーを撃ちつけていた手が止まった。
ねえ、嘘って言った?
言ったよね?
何が?
どっから?
閉じかけられていた、さっしーの目が開く。
今日初めて、あたしのことをちゃんと見てくれた。
何をどう言ったらいいのか、わかんなくて、
「え?」
とだけ、聞き返す。
「うそ、だよ」
今度は、ちゃんと聞こえた。
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