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咲夜さんにお姉ちゃんが使った禁呪、夜忌印封じだ。どんな能力者の、どれだけの霊力でさえ封印してしまうはずの術の証を見て僕は眼を疑った。
「ど、どうして!? これをかけられたら力を失うんじゃないの!?」
「それはどうでもいいのよ」
星神に匹敵するような神を抑える封印術を受けたというのに、瑠璃波最強以上の力を振るう。
そんなデタラメをしておいて、それをどうでもいいと切り捨てて、母さんはぎゅっと抱きしめる力を強くした。
「この術を使えば、術者の力は半減する。私に一度。散葉さんに一度、咲夜に一度。白夜の力は、落ちに落ちてる」
倒すならばいまだと僕に囁く母さん。でも、僕には疑問があった。
「母さんでも、お姉ちゃんは止められないの?」
幻術を破ったときの一瞬。香澄に触れた母さんから感じたその力は途方もないものだった。お姉ちゃんは強い。でも、母さんが勝てないとはとても思えなかったのだ。
「難しいこと聞くわね。戦って勝てるかといえば、楽勝だわね。けど、私は最初にあの子を身ごもった時に決めたのよ。自分の子供には力を使わないって。さっきのだって、空間だけを壊したでしょ」
「でも、止めないと世界が変わっちゃうんだよ」
「知ったことじゃないわ。私が自分の子に手をあげないといけない世界なら、壊れたほうがましね」
今度は、僕が笑う番だった。
男の子は母親に似た人を好きになるというのは、どうやら本当らしい。だって僕は、散葉が今の言葉を口にするのが鮮明に想像できる。
僕の様子に気づいたお母さんが、口をとがらせた。
「零也、あんた私を試したわね」
言ってからクスっと笑い、僕を見据えた。
「使えるのは一度きりよ。これで、あの子を包む地獄を『壊し』なさい」
お母さんが指の先に浮かべたのは霊力の結晶だった。政基くんたちと同じように用意してくれていたらしい。
「僕の術を知ってたの?」
「散葉さんが、多分完成させてるはずだって言ってたから。でもいま言ったとおり、こうして結晶として安定させてても私の手を離れてしまえば起動は一度きり。それでも多分、あなたも無事じゃすまない。だから心して使いなさい」
結晶を受け取ってオルゴールに流し込む。
きちんと受け入れられたのを確認している僕を、お母さんがもう一度抱きしめた。
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