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赤子だった期間は短かった。
最初は手を焼いたが、それも六人がかりとなればずいぶんと楽なものだった。
その娘。咲夜と名づけられたそれは、凄まじい速度で知恵をつけていった。季節が一巡りする頃には、その奇妙な家族の一員だった。
「ほんっとに不器用ねあんたは!」
「す、すみません!」
雨天の姫に怒鳴られることはあったけれど、それも日常の一部。
「そうよ。そのままその泥団子をアホ面で寝てる馬鹿の口のに捻じ込むの」
「で、でででででも怒られますよ!」
華音のいたずらに巻き込まれたりすることもあったけれど、それも日常の一部。
「うふふ。綺麗でしょう。貴女に見つめられて、照れているみたい」
「ほ、本当です……? え、えへへ。綺麗なお花さんです」
鈴の花いじりに付き合わされることもあった。それも日常の一部。
「気を鎮めるんだ。自然と一つに重なるように」
「はい……」
真の修行を横で真似したこともあった。それも日常の一部。
「さぁ、今日はどんなことをする、咲夜」
「え、えっと」
星羅と一緒に暇つぶしをしたこともあった。それも日常の一部。
「気持ちいいね。今日はとてもいい風が吹いてるよ、咲夜」
「はい、とってもいい風です」
輝人と日向ぼっこをしたこともある。それも日常の一部。
みんなで寝食をともにしたこともあった。
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