2.約束だから。信じてるから。

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「退いて下さい」 「あ、え?」  少しうつむいたまま、零也は続ける。 「命さんがここを上がってきたらあなたと当たります。素直に通してくれるなら安全と判断します。それができないなら、いまここで切り捨てます」  ぞっとするような声音。はったりではない。およそ似つかわしくないそのセリフを、零也は口にした。  そして、何事もなかったように歩き出す。目の前の少女など、最初から居なかったように。 「う、あ……」  すれ違い、なおも零也は歩く。数歩歩いたところで、均衡は破られた。 「い、いかせない!」  ぱん、と手を叩く音がした。それが合図だったように、床を濡らしていた水が零也に押し寄せた。勢いは凄まじく、あっという間にすべての水が零也をつつんで球形を成す。その中でも激しく水が動き、零也の体を翻弄する。 (馬鹿ですかあなたは! 馬鹿に違いありません! それで素直に通すようならはじめから敵になったりしないでしょう! 挙句、こんな技までくらって! 私の力は温存するんじゃなかったんですか!)  この反霊石でできた城の中では、零也は他人から霊力を得ることができない。状況を打破するには霊力殺しの香澄でこの檻を切り裂くか、日溜りの唄を使うしかないのだ。香澄はそれを責めていたのだが、零也は返事をしない。  それは余裕が無いからではなかった。 『斬る』  この水流の中、ただただ冷徹に、目の前の敵を斬り殺すために狙いを定めていたから。  香澄がそれを止めるよりも先に、零也の手が柄に触れる。
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