1.濃紺の幕開け

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 それはまさに、天空城だった。  空に浮かび、城の形をしている。空飛ぶ龍の背に築かれているから浮いているという単純な仕組み。 「さあ、手加減はいらない。大技を決めて入城といこう」 「え、だけどあの龍は命さんのお兄さんなんじゃないんですか?」 「あぁ。だが、この程度でどうにかなったりはしないさ。あの人の頑丈さは私が保証しよう」  そう言って、命は零也の左手を握った。霊力を通して、いまから放つ術の式を送るために。 「君の手の内は隠しておいたほうがいい。せっかく前回は見せていないんだからな」 「わかりました。やりますよ、命さん!」 「ああ!」  呼吸を合わせる必要はない。つないだ手からなによりも確実に思考が流れてくる。  「「――白龍千爪!」」  つないだ手とは逆の手を大きく振り払った。  そこから放たれるいくつもの稲光が宙を舞う無数の人形を焦がし、撃ち落としていく。  だが、その雷撃はあるところで弾かれていた。 「ちっ。これは厄介だ。意識がないというのにあの人の障壁まで健在か」 「僕が破ります」 「だが香澄も隠しておきたいだろう」 「ええ、使いませんよ。こうします」  命は零也の暴挙に目を疑った。  城の方へ手を向け、日に三度きりの切り札を見舞ったのだ。
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