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☆
階段は、やはり先ほどと同じ造り、同じ長さだった。部屋を抜けた勢いをそのままに。否。更に加速して駆け上がる。
「香澄。もう、どれくらい来たかな」
『不用意に話しかけるんじゃないですよ。私のことを気取られますよ』
「前に一度、見られてるしさ」
『楽観的ですね。まぁ。そのほうが貴方らしいです。さて、目算でいくともう、目的地は近いはずです。反霊石で出来ているというこの城のことです。術で距離を伸ばすような小細工は手間がかかりますからね』
「そっか」
階段を上がり、ドアノブに手をかけようとして、零也は動きを止めた。
「どうしました?」
「いや。なんでもないよ。少し、変な感じがしたんだ」
術の類が上手く作用しないのはいま、香澄が言った通り。それに加えて、雨天の姫のもとで修行してきた零也にとってはほとんどの幻術は子供だましに過ぎない。だから、その違和感は気のせいの筈だった。
あっさりと切り捨てた可能性。
そして開いたドアの先には――雪鬼が鎮座していた。
「き、鬼太郎先輩?」
自分で口にした言葉を、即座に否定する。鬼太郎は咲夜が瑠璃波の生徒に課した契約のせいで学園から出られなくなっている。
「ここは、日溜白夜の力が及ばない空間。とある術の中だ」
「術」
馬鹿な。その言葉を飲み込んで、一息に香澄を抜き放つ。どんな術であろうと、空間そのものが術であるならば、これで両断される。
しかし、なんの変化も起こりはしない。けれどわかる。もう、零也がいま通ってきたドアは背後から消えている。
更に。
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