761人が本棚に入れています
本棚に追加
☆
ある、娘が居た。
山奥にある小さな村の長の娘。
あらゆることは指示なしには許されず、縛りに縛られた生活を送っていた。
なにも知らず――気付かぬ振りをして。
疑いを持たず――ただ、偽りの希望を信じて。
けれどそれで良かった。
そうして自分の生は終わっていくのだと思っていた。
幸せではなかったけれど、苦しくはなかった。
持たぬがゆえに、失わなくてよかった。
けれど、その生活は唐突に終わりを告げた。
瑠璃波の使者を名乗る――日溜りの名を持つ青年によって。
それは、ある意味では彼女にとっての不幸の始まりだった。
けれど、幾年月が過ぎようとも彼女がその日を呪う日は来ない。
その別れすら、不幸すら、彼女にとってはかけがえのない――
最初のコメントを投稿しよう!