1.濃紺の幕開け

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                ☆  たたん、たたん、と。  客室でなく、ただの車両の席に座り、咲夜は外を眺めていた。  一定のリズムで訪れる音以外は音のない世界。今日はいつもの少女もいない。  都合がよかった。いまは、思考に集中したかった。  想うのは白夜のこと。ひたすらに彼女へ思考を落とす。過去、幾億人もの人間を見てきた咲夜がその経験に白夜を照らし合わせる。  交わした言葉は決して多くはない。それでも、彼女を見て、声を聞いたのだ。彼女がどういう人物なのか想像することはできる。  意味が無い行動に見える。けれど、それは違う。あの僅かな時間では白夜の全ては理解できなかった。彼女があの時に見せた闇とは違う闇が在る。そうでなければおかしい。なぜなら―― 「白夜ちゃんがしていることは私の望みそのものだから」  本当に復讐したいのなら、相手が一番して欲しくないことをするだろう。咲夜の場合、生徒や零也を殺されることなどがあたる。それをしないのは白夜がしたくないことだから。けれど――。 「もしもすべての神々を喰らえば、私を『本当の神話』の頃に送り返すこともできるはずです。その部分を永遠に巡らせることすら。その輪廻を作ってからそれとは別の世界を作ることだって簡単です。それをしようとしていないということはやっぱり――」  そこで、白夜についての考察を咲夜は切り上げた。かわって、その弟に想いを寄せる。 「だとすれば、問題なのは零也さんですね」   ふう、と咲夜はため息をついた。 「まったく、あの人は何度言っても聞きませんね。自分の体を大事にしてって言ってるのに」  今回のことは看過できない。零也の行動に咲夜が本気で憤りを覚えることなど、出会ってからでさえも数えるほどしかない。これは、それ程に重要なことなのだ。 「絶対に許しません。私は、あなたにそんな事を教えた覚えはありません。いいえ、あなたの大切な人は誰一人、教えていないはずです。みんな、聞き分けのない子ですから。往生際の悪い子ですから。諦めたりなんかしない、私の自慢の生徒なんですから」  あなただってそうなんですよ、と口の中でつぶやいて、咲夜は顔を上げる。 「他の全部を諦めなかったくせに、そんなにも大切なモノを諦めるなんて、絶対に許しません」
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