1.濃紺の幕開け

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 真なる闇が瞳に輝く。  それはかつて、最も輝いていた神に引き寄せられた頃とは違う。誘蛾灯に引き寄せられるだけの虫とは違う。明確な意志を持って、咲夜はまだ小さな、けれど優しい光に手を伸ばすのだ。放っておけば今にも消えてしまいそうな光を絶やさぬ為に。 「あなたは私を照らしてくれた。あなたの優しさがあったから私は今を歩こうと思えるのです。だからこんどは私の番。私には照らすことはできないかもしれないけれど、あなたを叱ってあげます」                 ☆  何度か招かれた物語の中のような部屋とは真逆の、無機質な内装。等間隔で術によって作られているろうそくが唯一の装飾だった。  そのろうそくも、形だけだ。溶けるわけでもなく、ただ漠然とその形をとっている。変化のないこの部屋はまるで時間が止まっているようにさえ見える。  二人が駆けていく足音は反響していた。長い通路だ。けれど、障害はない。あれだけ派手に侵入したというのに、誰も出てこない。 「妙だな」 「やっぱりそう思いますか」 「ああ。さっきまでいた人形くらいは出てきてもいいはずだが」  だが、破られると分かっている障害の意味などいくつもない。大きく分けて、三つ。相手の力量を測ることと、疲弊させること、時間をかせぐこと。そのどれもしないのは、する余裕が無いか、する意味がないと判断した時だけだ。  それがどちらなのかは火を見るよりも明らかだ。 「好都合です。あっちと違って、こっちはガス欠が早いですからね」   しばらく走ったところで、階段に突き当たった。長い、長い階段だった。その先には扉が見える。だが、城の高さからしてあれが一番上ということはないだろう。 「最初の関門のようだな」  零也がうなづくと、命は足を止めた。 「分かっていると思うが、私が戦い始めたら相手が誰であろうと手助けなど考えるんじゃないぞ。君は、君の戦いをするんだ。私は気にせず先に進むんだ」 「……わかりました」 「なに、心配するな。必ずあとから追いつく」  零也はもう、不安な表情を隠しはしなかった。無駄だ。いまさら、そんなことを隠せないのは分かっているのだから。  それでも、零也はうなづいた。命をつれてくるとは、最初からそういう意味だったのだから。
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