1.濃紺の幕開け

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「信じてます」 「だったら私に敵はないさ」  家族だけに見せる笑顔。直後、稲妻と化す命。龍の咆哮のような雷鳴を轟かせ、階段をひとっ飛びして一直線にドアを打ち破る。  零也もすぐに追いつき、晴れていく煙の先に視線を向けた。 「おやおや、弟君のお連れ様は激しいお方のようだ」  燕尾服に身を包んだ、まるで執事のような男がいた。  反霊石によって発している霊力は隠されていても、その威圧感は隠せない。柔らかな物言いとは裏腹な刺々しいプレッシャー。 「稲妻祝詞と申します。お見知りおきを」  向けられた笑顔に悪意はなかった。思わず、心を許してしまいそうになる。 「おとなしくしていただけるなら、お茶をお出ししますが」 「それは魅力的な誘いだな」 「ええ。昨日のうちに散葉様が淹れた紅茶が――」  けれど、その瞬間、零也の中で祝詞が明確な敵となった。 「落ち着け。まったく、散葉じゃあるまいし、自分が会っていなかった間に接触した人物に嫉妬するんじゃない」  ふう、とため息をついて命は一歩前に出た。 「それに、さっき言ったばかりだろう。これは、私の獲物だ」 「おや、狩られるのはそちらだと思いますよ」  体の前で構えた祝詞の腕に、稲妻が走る。 「古来、相場が決まっているのですよ。龍を退治するのは、神の仕事だとね」  何気なく振るわれた右手。その動きを追うように、部屋を埋め尽くさんばかりの電撃が走った。霊力殺しの反霊石でできたこの部屋で、だ。  両手のひらを重ねて防いだ命の腕が煙をあげた。その一撃は命の電気への耐久値を超えていた。驚きに染まる命の表情。  龍王の系譜という、龍の中でも最上位に位置する命を超える電撃。そんなものを放てる存在などただの一人しか存在し得ない。 「雷神、祝詞。推して参ります」  刹那、城を轟かす神鳴りが二人を襲った。  
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