1.濃紺の幕開け

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 雷鳴など、そこにはなかった。雷の発生点はそんなに生やさしくはない。もはや爆発音だ。 「ゴロゴロとやかましい!」 「おや、貴女も同じ力を使うのでは」 「一緒にするな!」  乱暴に振るった雷撃。だが、それは奇しくも力の差を知らしめられるだけの結果となった。  放たれた電撃は祝詞の向けた手に当たり、吸収されたのだ。 「なるほど。私とは確かに質が違う。繊細な雷ですね」  ち、自分でもらしくないと思う舌打ちをして、けれど冷静に分析する。  ここまで受けた電撃であれば、耐えられる。 「零也。手を」  すぐに零也が私の手を握った。会話をせずともこれで意思の疎通ができるのだから便利だ。 『次の一撃のあと、ここを駆け抜けろ』 『でも!』 『往生際が悪いぞ。私はそのために来たと言ったろう。私を置いていけないのであれば、散葉を救うことなどできないと思え』  会話はそこまでだった。手を離し、私は準備を始める。霊力を腕に集め――。 「恐ろしい才能ですね。こちら側の世界に足を踏み入れて一年程だと伺いましたが、まさかここまでスムーズに霊力の交換を行えるとは。ですが、姫様には遠く及びません」  ぱり、と。  完全に私の反射速度を超えていた。コンマ一秒、反応が遅れた。だが祝詞の速度を鑑みればその遅れは致命的。  その指先は私の首筋に添えられていた。鋭い、刃物のような爪だ。  けれど。 「本当に、恐ろしいまでの才能です」  同じように香澄の切っ先もまた、祝詞の首筋に添えられていた。 「命さん。次は、見切れますか」  聞いている。ここを任せても本当に平気かと。  私が命を賭けてすら、遠く及ばないかもしれない敵。それを相手にできるかと、私の愛する人は聞いている。  そんなもの、答えは決まっている。 「任せてくれ」  零也は刀を納め、祝詞の横を歩いて通り過ぎた。数歩進んだ先で立ち止まり、振り返らずに言葉を紡いだ。 「祝詞さん、でしたよね」
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