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「みんな、待って! 何かがおか―――――し……―――――」
あたしの忠告がみんなに届く事はなかった。眩む視界は、初めてこの世界に来た時と同じ感覚だった。でも、1つだけ違う事がある。
それは、痛みがあることだ。
あたしは魔王の背中から伸びる、鋭い何かに身体を貫かれていた。
じわりと血が滲み始めているのが分かる。
あぁ……、皆が遠退く……。それ以上近付いてはダメ…。
しかし、声が出ないため、皆に伝えられない。
(待って……気付いて…フォク!)
あたしの思いが伝わったのか、異変に気付いたのはフォクだった。フォクはすぐさま駆け寄ってくれ、傷を診てくれた。
しかし、鈍い痛みと溢れ出る血のせいで意識は朦朧としていた。
ああ、あたしは帰れないんだ。戻れないんだ。
瞳から零れた涙は一筋の線を描き落ちていった。
あたしは、最期の力を振り絞り手を伸ばした。焦点が合わないので何処に伸ばしているか分からない。ただ、無意識にも近い状態と言うことは分かる。
伸ばした手は、虚空を掴んだだけだった。
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