最低な夜、コーヒーの彼

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――彼が、他の女の子を選んだ。 また、だ。 前の彼の時もそうだった。 冷たい壁にもたれて目を閉じた。 心は痛みでフリーズしているのに、涙だけが忙しく溢れてくる。 流れたマスカラで頬はざらざらだ。 「帰れないや……こんな顔で」 笑おうとしても、時々塊みたいに込み上げる嗚咽で喉がひきつれた。 ノー残デーの金曜の夜、 静まり返ったオフィスの廊下。 休憩室から漏れる明かりと非常灯以外、照明を落とした廊下は真っ暗だ。 数時間前。 私は彼の裏切りを知った。 私の目の前で、 彼は同僚の女の子と寄り添い、 マンションへと入っていった。 週末の食材なのか、 スーパーの袋を抱えて。 絡め合った二人の指が、 閉じた瞼の裏から離れない。 苦しくて目を開ける。 見上げた目に映るのは、明かりの消えた灰色の蛍光灯が並ぶ、無機質な天井。 ……私、ひとりだ。 今も、明日も、きっとその次も。 じわじわと、 孤独が私を締め付ける。
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