はじまる

4/4

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 瞼が眩しさに瞳を開放した。そこは白一色の中だった。さっきまで車に乗っていたはずなのに、気がつけばここは無音の孤独だ。何があったんだろう、覚えているのは父さんと母さん、目の前に迫る鉄の塊。泣いて喚いて引き止める瑠璃子の姿、それを見て困る僕の父さんと母さん。父さんと母さん、は、どこに、いったんだろう。  部屋に入ってきた人が独特の臭いを発する袋を手に持って、僕の目覚めに驚嘆した。奇跡だと騒ぎ出したこの人が着ていた白を見て、僕は病院だと気づいた。  看護婦と思しき白い影が出ていった後、老齢の60近いだろう男性の医者らしい白が入ってきた。 「君が無事で本当に良かった、正に奇跡だよ」  皺が浮き彫りになった顔が笑顔になる、心から嬉々とした声だった。まるで優しかった祖父のように。そして医者の顔に戻り、すぐに目を逸らした。まるでなにかをためらうかのように、僕の顔をしっかりと見据えて。 「しかし、君のお父さんお母さんは......」  告げられた言葉は『死』だった。僕らが乗っていた車は、居眠り運転をしていたトラックによって無残にも潰されていた。母は即死、父は僕を庇うようにトラックの鉄塊に飲み込まれて一命を取り留めていたが病院に運ばれる途中で死亡が確認されていたそうだ。僕は、運良く父と運転席の下敷きなったことで助けられて、集中治療室で一晩を過ごし、一週間眠っていたそうだ。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加