はじまる

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 ――あの頃僕らは恋を合っていた。いつしかきっと愛に変わると信じて、ずっと、一緒にいよう。なんて臭いセリフをよく言っていた。  放課後の街、あちらこちらで学生服や、ブレザーを崩して着る学生たちの活気に満ち溢れていた。孤独だ、まるで赤い魚達の群れに紛れ込んでしまった黒い小魚のようだ。だがこの協調性のない動きを行う彼らと、正にテンプレートが如くアパートに滑り込む自身の動きは比較にならないほど余裕が無い。  アパートの一室。学生の身分でも買えるような格安物件を探し当て、去年の春からここに住んでいる。はじめこそ苦労したが、いまは慣れ親しんだこの黒い部屋は愛着さえ湧き出てくるのだ。 「おかえりなさい」  優しい声が部屋の奥から聞こえてくる。僕は玄関口から覗く彼女の表情が嬉を意味していることに気づいて笑顔になる。 「ただいま、瑠璃子」  僕の最愛にして、背徳。僕の妹、瑠璃子。子供の頃から病弱で、寝たきりの生活を送っていた。いまも布団の上からわざわざ僕を迎えてくれる彼女が、僕は好きなのだ。  靴を脱いで、手を洗う。なんら変わりの無い日常の一端を行ってから、瑠璃子を抱きしめた。彼女の甘くて優しい髪の匂いと、柔らかい女の肢体が心を満たしていく。そして、肩の上に乗った腕を腰に回して唇をついばんだ。柔らかい感触が脳内麻薬を発し、刺激を求めてくる。彼女は痩せて細かったが、女の体だ、自身の性が反応しないはずがない。
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