0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
「いらっしゃいませぇ~!!」
と元気で、なおかつ、店のガヤガヤにも負けないくらいの声で店の奥のほうから聞こえた。
その彼女こそ、1日12時間営業で商売繁盛、そんな店をたった一人で切り盛りする凄腕料理人、
「弥嶋 メイ」その本人だった。
しかし、彼女が首都とはいえ、狭い路地裏に店を構えているということを常連客は不思議に思っていた。
なぜなら彼女は、祖母に世界的な食のブームの火付け役の一人、「緒々那 サオ」を持ち、
母は様々な新料理や、新調理法などを発見した「弥嶋 ニア」を、父にはニアとは似て非なるアウトドア研究家の「弥嶋 サイ」など、彼女の家系はとにかくツワモノ揃いだった。
…そんな彼女のことを考えていても、すぐに考えることをやめてしまう。店の匂い、香りが思考を遮断するのだった。その源ともなる香りは身長158cmの彼女が持つにふさわしい大きさの中華鍋からだった。
膨大な量のニンニクと、千切りキャベツをさすがの手さばきで炒め、こってこての豚骨ラーメンに約7cmの「ニンニクキャベツチョモランマ」を建設し、常連の客のところへと速足で持って行った。
その常連客とは、
「いつもありがとうね。」
「仕事ですからぁ~」
という言葉の掛け合いがお決まりのようになっていた。
彼女の仕事は総業87年の老舗ラーメン屋を仕切ることのほかにもう一つあった。
ラーメン屋にたまに入ってくる貧しい人たちに栄養満点の料理を出したり、生きる希望を失った人たちや、道を踏み外してしまった人たちの話を聞き、持ち前の明るさで彼らを支えることだった。
そんな彼女が過労などにも負けることなく店を繁盛させることができることには秘密があった。
店の唯一のメニューでもある、「ニンニク豚骨ラーメン定食」に似たものを食べているからだった。
個の定食には、先ほど出た「チョモランマラーメン」をはじめ、「ニンニクたっぷり餃子」、「普通のご飯」、デザートには「ニンニクアイス」と、完全なスタミナ食がある。
このメニューに似たものを普段から食べている彼女にとっては、この仕事はちょうどよかった。
そんなことを話している間に、第2の仕事のお客さんが来たようだ。
最初のコメントを投稿しよう!