仕度

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「俺としては、しばらくこっちを手伝ってほしい。  営業部長の耳には入れておいた」 「「東間」」  俺と柄沢と同じく、何度か仕事をともにしたその男こそ、今回のプロジェクトのリーダーだった。 「迷惑をかけて悪い木島。 俺ももっとチーム内の様子を見るべきだったんだが。 ・・・・いや、言い訳はできないな。俺の責任だ」 「このプロジェクトは、東間の担当だったのか。 お前も結構大変だとは聞いてるけど、こんな所にいて大丈夫か?」 「柄沢もいたのか」  柄沢の言葉に引っ掛かるものがあったが、二人はそのまま会話を続けていく。 「お。まぁ、俺は帰ろうとしたら、木島がいたから話してただけなんだけどな。 どうせ終電の時間過ぎちまったんだ。 愚痴くらい聞くぜ? 木島も、明日からこっちの仕事手伝うんだったら、今日はもうこれくらいで良いだろう?」  そういって柄沢が くいっと酒を煽る仕草をした。  正直、俺はそれどころではなく、東間に尋ねた。 「東間、営業部長にはなんて言ったんだ?」 「しばらくの間、木島を貸してほしいって言ったよ。 詳しいことは、明日部長交えて、相談になる。 正直お前のメール見たら、そうでもしないと期限に終わらないだろうからな。 ここに来ての修正だろう? 俺の方も、明日からはこっちに詰められるようにしてもらう」 「まぁ、それが一番いいんだろうが・・・・・」  今の仕事は一週間くらい抜けても支障は来さないだろから、東間の案は採用されるだろう。 どうしても行かなければならない客先もない。 フォローもメールや電話でのやり取りで足りるだろうし、一社二社なら、少し抜け出せば顔を出せなくもない。  ただ、それは自分の今の仕事を全否定するような気がして居たたまれない。 『お前ひとりいなくても、変わらない』  そういわれているようで。 「本当に、すまない。木島 今はこちらに力を貸してほしい」 「・・・・わかった」  今の仕事ではなく、本来やりたかった仕事で必要とされている。  うれしいはずなのに、どこか納得が出来ない。  そのどす黒いジレンマの陰にある、小さなシミ。  白い、どこまでも白い、小さなシミ。  それに気づかないふりをして、三人で席を立った。
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