2人が本棚に入れています
本棚に追加
「今日もありがとうござます」
話しかけても無駄だかもしれないと思いつつも、それでもお茶を出されるたびに声をかけた。
”今日も良い天気ですね”。
”先日いただいた紅茶も美味しかったです”。
そんな一言、二言。
そのうち、少しずつ変わってくるものがあった。
最初は、紅茶と一緒に、小さなメッセージカードがついてくるようになったこと。
『今日の紅茶:ダージリン』
女性らしいデザインのメッセージカードに、小さな、きれいな字で書かれていた。
次に、ささやかな お茶のお供がつくようになったこと。
ティーソーサーに、砂糖の代わりに一口サイズのチョコレートや金平糖が乗っていたりした。
鈴城さんが、進んで話すことはなかったし、カップを置いてしまえば去っていく、その凛とした後姿の、どこか人を寄せ付けないような雰囲気はそのままだった。
それでもそんな小さな変化は、嬉しいと感じた。
そして、自分も変わっていった。
外回りの仕事は変わらずに違和感を感じていたけれど、面白みも感じるようになった。
なにより、紅茶に詳しくなった。
手元には鈴城さんのメッセージカードが残っていたから、そこから それがどんなお茶なのか調べた。
自分で買うことはしなかったけれど、紅茶専門店を覗いて、試飲をさせてもらったりして、彼女が淹れるお茶が、お店にならぶそれと遜色ないものだとわかったのも、その頃だった。
会社のディスペンサーで淹れた紅茶とは、比べるのも失礼というものだ。
最初のコメントを投稿しよう!