仕度

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「今日もありがとうござます」  話しかけても無駄だかもしれないと思いつつも、それでもお茶を出されるたびに声をかけた。 ”今日も良い天気ですね”。 ”先日いただいた紅茶も美味しかったです”。  そんな一言、二言。  そのうち、少しずつ変わってくるものがあった。  最初は、紅茶と一緒に、小さなメッセージカードがついてくるようになったこと。 『今日の紅茶:ダージリン』  女性らしいデザインのメッセージカードに、小さな、きれいな字で書かれていた。  次に、ささやかな お茶のお供がつくようになったこと。  ティーソーサーに、砂糖の代わりに一口サイズのチョコレートや金平糖が乗っていたりした。  鈴城さんが、進んで話すことはなかったし、カップを置いてしまえば去っていく、その凛とした後姿の、どこか人を寄せ付けないような雰囲気はそのままだった。  それでもそんな小さな変化は、嬉しいと感じた。    そして、自分も変わっていった。  外回りの仕事は変わらずに違和感を感じていたけれど、面白みも感じるようになった。  なにより、紅茶に詳しくなった。  手元には鈴城さんのメッセージカードが残っていたから、そこから それがどんなお茶なのか調べた。  自分で買うことはしなかったけれど、紅茶専門店を覗いて、試飲をさせてもらったりして、彼女が淹れるお茶が、お店にならぶそれと遜色ないものだとわかったのも、その頃だった。  会社のディスペンサーで淹れた紅茶とは、比べるのも失礼というものだ。
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