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「いただけません」
「実を言うと、僕は紅茶をうまく淹れられないんです。だから鈴城さんに受け取っていただけないと無駄になってしまいます」
「・・・・・」
”どうして名前を?”とか、”なんでプレゼントを?”とか、言いたいことは沢山あったのだろう。
それでも鈴城さんは黙ったまま、特に表情を変えずに固まっていた。
あと一押しだと、少しだけ表情を柔らかくして付け足した。
「では、これでまた、美味しい紅茶を淹れてください。楽しみにしています」
そこまで言い切ると、あとは知らんぷりで出された紅茶を啜った。
うまく笑えたかどうかも分からないけれど、やることはやったのだ。
これで受け取ってもらえなかったら、それまでだ。
「鈴城君、どうしたんだい?」
その日に限って、いつも10数分は待たせる担当氏が現れた。
「こんにちは、伊東さん。
実は、鈴城さんに、いつも美味しい紅茶をいただいているので、お礼にと思って紅茶を差し上げたんです。
クリスマスも違いですしね」
「なるほど。紅茶ですが。洒落てますなぁ。
良かったな鈴城。
お前、いつも飲んでるもんな」
これで受け取って貰えると、そっと息を吐き出した。
「ありがとう、ございます」
そう言って、小さく頭を下げた鈴城さんは、いつもよりやや早い歩調で、打ち合わせ室を後にした。
もちろん、プレゼントを手に。
完全にドアが閉まるのを確認して、伊東氏は少し前かがみになった。
「ここだけの話、鈴城に興味があるんですか?」
「え?」
「いやぁ~、一見、根が暗そうにみえはしますが、仕事が丁寧で良い子ですよ」
「はぁ・・・・・」
「いやぁ、若いですなぁ!!」
プレゼントを渡す、という難関はクリアーできたが、どうやら次の難関が待ち構えていたらしい。
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