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ディスペンサーで淹れたコーヒーを飲みながら、久しぶりに黒い画面に踊る小さな文字の羅列を追って行く。
香りだけは良いのに、と、一口飲むごとに違和感が過る。
"鈴城さんの紅茶なら、美味いのになぁ"
そこまで考えてはたと止まる。
確かに彼女の淹れる紅茶は、香りもさることながら、なによりも味が良い。
薄過ぎず、渋過ぎず。
市販のそれが、ただの色付け人口香料の砂糖水と思えるくらいには、紅茶らしい味がする。
紅茶の映える白磁のティーカップに、華やかな赤が踊る。
基本的にストレートらしく、砂糖 はついてくるが、ミルクやレモンがついて来たことは無い。
砂糖を入れることすら失礼にあたるような、金の縁取りを見せる、澄んだ赤い液体を飲み干すのは、とても贅沢な気分にさせる。
シミ一つ無い白磁は、そのまま淹れる人の姿に重なった。
「早速なにか違いました??」
後輩に声をかけられて、ふと我に返る。
「ここから違ったらお前、全滅だろうが」
脳裏に蘇る紅茶を、味気ないコーヒーで打ち消しチェックを再開する。
全てを埋め尽くさんとする文字の羅列に、黒く黒くと塗りつぶされて行く頭の片隅に、清廉な白がいつまでも残っていた。
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