第1章

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ハジマリ 1-1 何故か悲しい結末の童話を好み涙した頃…「めでたし、めでたし」で終わる物語ではなく、「お仕舞い」「さよなら」に惹かれるのは、それが決して「別れ」の言葉ではないから。 それに気付いた私は「さよなら」に微笑む。 ミサは読書をしながら、その『ハジマリ』のフレーズが気になり、本を閉じると窓を開け空をぼんやり眺めた。 ジリジリとした日が差し込む。 「さぁ、水槽の掃除しなくちゃ」 彼女は熱帯魚の水槽の掃除を始めた。 「待っててねー、グッピーちゃん」 つがいのグッピーが返事をしたように頷いた。 ◇ミサ ハジマリ 1-2 そもそも彼女がグッピーを飼い始めたのは去年の5月。 ふらっと立ち寄ったホームセンターの閉店間際。 長い間、寂しさを紛らせてくれた猫と悲しい別れをしてから、心ある生きものを拒んでいた彼女は可愛らしい鳴き声のするほうを横目で見送り、熱帯魚ブースへ。 色とりどりの水に住む生きものたち。 優雅に泳ぎ回る姿と鮮やかな水草、人工的な敷石のコントラストに見惚れた。 「あら、もうこんな時間」 スピーカーから『蛍の光』が流れ忙しなく閉店作業を始める店員の視線に、幻想の世界にスッと背を向けた。 ◇ミサ 1c4c9f08-5230-46d8-a8ef-2b74a1b33874
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