1.sweet

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 緑いっぱいの木のぬくもりを感じる店内はコーヒーの香りがしていて、とても心地よい。  窓側で待つのは、楓のお母さんだった。  あたしと楓は奈々香さんに向き合うように並んで椅子に座った。まだ先ほどの行いに恥ずかしさが残るあたしは、少し俯きながら照れ笑いをする。  奈々香さんと目が合うとクスクスと静かに笑っている。 「やっぱり可愛いわねぇ、千夜ちゃんは」  思わず俯いていた顔を上げると、優しい笑顔であたしに微笑みかけてくる。  なんだか、さっきも聞いたような気がするセリフ。  綺麗に切りそろえられたボブの黒髪がサラリと揺れる。長めの前髪を耳にかけ、コーヒーのカップを手に取ると一口飲み、静かにテーブルへと戻した。 「で? どうだったの?」 「そりゃもちろん合格でしょ!」 「えーー! すごーい! やっぱすごいわ千夜ちゃん!」 「いや、俺だろ、すごいの」 「何言ってんのよ! 千夜ちゃんが頑張ったからに決まってんでしょ!」  急に始まった親子の会話にあたしは着いていけずに、奈々香さんが頼んでくれていたレモネードを一口飲む。  小さい頃から奈々香さんは楓同様にあたしのことを気にかけてくれて、相談も色々してきた。やっぱりこの親子には頭が上がらない。 「良かったねー楓。またしばらく楓の事よろしくね! 千夜ちゃん」 「……え!」  申し訳なさそうに言ってくる奈々香さんに、あたしは楓の様子をちらりと伺った。 「なんだよ、知ってたから。大丈夫、俺にはいつだって千夜がいんじゃん」  心配をよそに、楓はケロリと笑っているから、あたしはホッとして奈々香さんに聞いた。 「まだ帰ってこれないんですか?」 「うん、仕事がなかなか落ち着かなくて。ほんとごめんね。楓にはずっと寂しい思いさせてる。千夜ちゃんの存在には、ほんと感謝しかないのあたし。ありがとう。  また同じ学校に通えるって知ったら、なんか安心しすぎてお腹空いちゃった。なんか食べよっか! 頼んで頼んでっ」  奈々香さんはメニューをあたし達に差し出して、鳴り出したスマホを手に取り席を外した。  隣にいる楓は表情を変えることなく、レモネードをゴクゴクと飲みきっていた。  楓の両親は、楓が小学校卒業間近に離婚してしまって、仕事命の奈々香さんは楓を置いてここにはいない。  だからって、あたしも楓も奈々香さんを酷い親だとは思っていない。  うちの両親と奈々香さんは学生の時からの友達で、楓はほぼうちで暮らしているようなもので、たぶんだけど、寂しい思いはしていない……はず。  たまにだけど、こうやって帰ってきてあたしと楓の話も聞いてくれる。 「ごめんねー、頼んだ?」  通話を終えて戻ってきた奈々香さんは、テーブルの上に何も来ていないことに気がついて、椅子に座るとメニュー表を手にして、次々と注文し始めた。  しばらくして、お洒落なカフェテーブルの上に所狭しと置かれた食べ物を堪能し始めたあたし達を見ながら、奈々香さんは満足そうに微笑んでいた。
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