49人が本棚に入れています
本棚に追加
ほんのつかの間だったけど、受験勉強でのあたしの苦悩や楓の必勝法説明をして笑いあった。そうして、奈々香さんはまた足早に車に乗り込み帰って行ってしまった。
車が角を曲がって見えなくなった頃に、楓の方を見ると、ニヤリと笑っている。
「寂しくないの?」
「おまえなぁ。俺たちもう春から高校生なんですけど? いつまでもママ〜って言ってられっかよ」
「……まぁ、そりゃそーだけど」
「俺には千夜がいるって言ってんじゃーん」
あっけらかんとして言う楓に、あたしはため息をついた。
楓は、ほんとに小さい頃からの仲良しだから、あたしも楓がそばにいると正直安心するし、頼りにしちゃうし、頭もいいから何とか無事に同じ高校にも合格出来た。
だけど、あたしの存在って邪魔だったりしないのかな?
あたしがいるせいで、彼女だって出来た事ないし。何回も告白現場見てるんだから。
高校入ったら、楓には可愛い彼女を作ってもらわないと。あたしが出来る高校合格の恩返しだと思って、頑張るつもり。
「何気合い入れてんの?」
「うん、頑張ろ!」
「???」
腑に落ちない顔をする楓をよそに、あたしは自転車に乗ると颯爽と走り出した。
☆
桜満開、青空全開。
入学式にもってこいの日に、あたしはグズついていた。外では楓が急かしながらも待ってくれている。
「千夜ー、初日から遅刻なんて考えらんねーからな! まだかよー」
「ごめんごめん! 制服着るのに手こずっちゃったよ」
新しい制服に四苦八苦して、あたしは玄関を飛び出した。
目の前には見慣れないブレザーにネクタイ姿の楓がいるから、一瞬言葉を失った。
「……わぁ、大人っぽー!」
「お互いな。千夜、似合うじゃんって、マジで時間やばいから。走るぞ!」
慣れないローファーをまだ履き終えていないのに、楓は走り出すから、あたしはそれを必死に追った。
なんとか電車の時間には間に合ったから良かったけど、楓が居なかったら確実に遅刻だったな。
あたしは息を整えて到着駅で降りると、周りの同じ制服を着る人達に胸が高鳴った。
みんな何だか大人っぽい。
勉強も出来そうだし、ほんと頭良さそう。
あたしが期待と不安に包まれていると、後ろから楓を呼ぶ声がした。
「楓ー! おっはよー。やっっば、初日から遅刻するとこだった」
息を切らしてやって来たのは、楓の親友の中里 圭次。
すでに制服を着崩して、短髪の額に汗が光る。
最初のコメントを投稿しよう!