1.sweet

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 ほんのつかの間だったけど、受験勉強でのあたしの苦悩や楓の必勝法説明をして笑いあった。そうして、奈々香さんはまた足早に車に乗り込み帰って行ってしまった。  車が角を曲がって見えなくなった頃に、楓の方を見ると、ニヤリと笑っている。 「寂しくないの?」 「おまえなぁ。俺たちもう春から高校生なんですけど? いつまでもママ〜って言ってられっかよ」 「……まぁ、そりゃそーだけど」 「俺には千夜がいるって言ってんじゃーん」  あっけらかんとして言う楓に、あたしはため息をついた。  楓は、ほんとに小さい頃からの仲良しだから、あたしも楓がそばにいると正直安心するし、頼りにしちゃうし、頭もいいから何とか無事に同じ高校にも合格出来た。  だけど、あたしの存在って邪魔だったりしないのかな?  あたしがいるせいで、彼女だって出来た事ないし。何回も告白現場見てるんだから。  高校入ったら、楓には可愛い彼女を作ってもらわないと。あたしが出来る高校合格の恩返しだと思って、頑張るつもり。 「何気合い入れてんの?」 「うん、頑張ろ!」 「???」  腑に落ちない顔をする楓をよそに、あたしは自転車に乗ると颯爽と走り出した。 ☆  桜満開、青空全開。  入学式にもってこいの日に、あたしはグズついていた。外では楓が急かしながらも待ってくれている。 「千夜ー、初日から遅刻なんて考えらんねーからな! まだかよー」 「ごめんごめん! 制服着るのに手こずっちゃったよ」  新しい制服に四苦八苦して、あたしは玄関を飛び出した。  目の前には見慣れないブレザーにネクタイ姿の楓がいるから、一瞬言葉を失った。 「……わぁ、大人っぽー!」 「お互いな。千夜、似合うじゃんって、マジで時間やばいから。走るぞ!」  慣れないローファーをまだ履き終えていないのに、楓は走り出すから、あたしはそれを必死に追った。  なんとか電車の時間には間に合ったから良かったけど、楓が居なかったら確実に遅刻だったな。  あたしは息を整えて到着駅で降りると、周りの同じ制服を着る人達に胸が高鳴った。  みんな何だか大人っぽい。  勉強も出来そうだし、ほんと頭良さそう。  あたしが期待と不安に包まれていると、後ろから楓を呼ぶ声がした。 「楓ー! おっはよー。やっっば、初日から遅刻するとこだった」  息を切らしてやって来たのは、楓の親友の中里 圭次(なかさと けいじ)。  すでに制服を着崩して、短髪の額に汗が光る。
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