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「遅刻は常習だもんな、圭次。よく間に合ったな」
「おまえこそ、ギリギリじゃん。なんで……」と、そこまで言うと、圭次はやっとあたしの存在に気がついて嘲笑う様に片方だけ口角を上げた。
「あぁ、これか。小さくて見えなかったわ」
あたしを指差す顔が嫌味すぎてムカつく。すかさずその手を払いのけてやった。
「うっさい! もう、行くよ!」
あたしのせいでギリギリなのは確かだから否定はしないけど。
圭次はあたしが楓といつも一緒にいるのが気に入らないらしく中学の時から何かとつっかかってくる。
根は良いやつなんだけど、あたしを嫌っているっぽい。
楓もこんなやりとりは慣れたもので、特に何かを言うわけでもなく笑って歩き出す。
「しっかし、よく合格したよなー。周りの奴ら見ろよー、ヤバイ頭良さそうだし、真面目そうだし。俺ら大丈夫かなぁ」
「……あたしの方見て言わないで」
さっきあたしが思っていた事と同じ事を、しかも素直に口に出すあたりがもうきっと周りと違うんだろう。
歩き方からして、明らかにガラが悪い。
なんで楓はこんなのと友達になったんだろう。
あたしがため息をつくと、圭次がすかさず気がついた。
「そりゃため息も出るよなー、楓と並んで歩いてるのがだいぶ違和感だしなー」
ーーーーおまえがな!
そうは思いながらも、あたしは圭次にもう何も返せない。
と、言うかあたしは圭次レベルってこと?
ヤバイ。勉強もしたくないけどついていけなかったらほんとに圭次と仲良くしなきゃいけなくなりそうかも。
あぁ、あたしの高校生活、どうなるんだろ。
先行き不安でしかない。
俯くあたしに、楓が頭をくしゃっと撫でてくる。
「なーに暗い顔してんの! 圭次も居るなら最高おもしれーし、楽しみだなー、高校生活」
「……お世話になります」
「ははっ」
ほんと、あたし高校で楓離れできるのかなぁ。とりあえず勉強はしばらく楓先生についててもらわないとほんと不安。
ああならないようにだけは、気をつけなくちゃ。
あたしはネクタイゆるゆるの、カーディガン肩落ちの、ガニ股圭次から目を逸らした。
桜に囲まれた校舎は深緑の門が広く開いていて、たくさんの生徒がそこへ流れ込んで行く。
ここから、あたしの高校生活が始まるんだ。
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