序章

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「……」 何か言いたかったけど言葉が出てこなかった。 ぼやける視界を手の甲でグイっと拭う。 「!!」 不意に母の隣に見知らぬ男の人が立っていた。 20代後半位だろうか線が細く少し長めの黒髪に日に晒されていないだろう白い肌、色素の薄い茶色の瞳が真っすぐ母を見ている。 (…誰?) 母はこれ以上に無い程に幸せな笑顔を男の人に向けている。 本当なら父以外の男の人が母の隣に立っている…そして幸せそうな母…本当なら嫌悪感を覚えるはずなのに不思議と嫌じゃない。 しばらく見つめ合っていた二人が私に愛おしそうな目を送る。 「…」 温かいモノが私を優しく包み込む感覚に胸が一杯になり涙が止まらない。 そして自然な仕草で男の人が母の肩を抱き寄せたかと思うとフッと目の前で消えた。 「待って!お母さん!」 二人の居た場所に手を伸ばすがそこには何も無い。 ただ消える瞬間に聞こえた男の人の声が耳に残る。 「…鳴海、私の大切な娘」
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