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「先輩……?」
「いや……うん、悪い。柚原の反応があまりにも可愛いから、ついからかいすぎた。ごめんな」
ポン、と頭に手を乗せられて、恥ずかしくて顔を伏せる。
それに気づいた先輩が、「柚原?」と顔を覗き込もうとして、
「しっ……失礼します!」
「あっ、おい?」
驚く先輩の手をふりきり、走ってその場を離れる。
そのまま教室に飛び込み、席について息を整えた。
いきなり全力失踪すると、疲れる……。
「美由紀ちゃん?大丈夫?」
クラスの友達に心配され、慌てて「大丈夫」と返す。
先生が来て、それ以上深くは突っ込まれずにすんだ。
朝の挨拶を終え、先生の連絡事項を伝える声を聞きながら、ぼんやりと窓の外を見つめた。
教室の窓から見える桜は、すっかり葉桜へと姿を変えている。
あの日は、眩しくなるほどの花びらが舞っていたのに。
今は、もう――面影もない。
嘘みたいな話なんです。
私がそんな話を聞かされたら、「冗談でしょ?」と笑ってしまうような。
それでも、それは本当にあったことで。
――私と五木先輩は、冗談みたいな出会い方をしたのです。
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