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えっ、と驚いている間に、横をすり抜けた影。
目の前で木の枝に足をかけてするすると登っていく、真っ黒な人。
同じ高校の学ランに身を包んでいることに気づくのに、数秒かかりました。
その人はあっという間に子猫のもとにたどり着き、手を伸ばしました。
だけど、子猫は怯えたようにその人を見つめて動こうとしません。
「……ごめんな。ちょっと我慢して?」
ふわりと、風にのって聞こえた声。
低いのに、優しくて、柔らかな――……。
その人は少し強引に子猫を抱え、こちらを見下ろしました。
あ――初めて、目が合った。
「悪い、ちょっとどいててもらってい?」
こちらに向けられた言葉に、「えっ」と慌ててしまう。
少し後ずさって木から離れると、「サンキュ」とその人がニコッと笑って、次の瞬間――
「っあぶな……!」
叫んでも、時既に遅し。
その人は、子猫を抱えたまま木の枝から飛び降りてしまいました。
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