虚空の向こう側

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「この国は海で隔てられている。でも空はどこにでも繋がっている。海の名前は変わっても空はどこに行っても空だ。だから僕はパイロットになりたい」 兄は常々そう語っていた。 そんな兄は戦闘機パイロットになって遠い戦場に赴いた。 兄からはときどき手紙が届いた。 内容は部隊での生活や、今はどこにいるかが主だ。 でも私は思う。 手紙に登場する地名は以前の手紙で登場した場所からそれほど離れていない。 本当に空はどこにでも繋がっているのか。 兄はどこにも行けていないじゃないか。 そんな兄はどこかの空に散った。 やがて家に木棺が届いた。 届けられたそれを家の一室に運び込んで蓋を開けた。 そこに兄はいなかった。 あるのは石ころと申し訳程度の遺品のみ。 兄は虚空に吸い込まれてしまったのだ。 虚しいという感情が私の心を捉えた。 空に上がることに意味があるのだろうか。 そのようなことを地上にいる人間が論じるべきではないのかもしれない。 空のことは空にいる者にしかわからないものなのだろう。 私はそう思って航空隊に志願した。
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