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初めは──
初めは、掴めそうだったんだ。
だけど、それはどんなに手を伸ばしても届かなくて
どれだけ速く走っても追いつかなくて
だんだん息が苦しくなって
それでも、求めた。
どんなに距離が離れようとも、追いつづけることに痛みが伴おうとも、
少年は夢を見続けた。
少年は自分のためにあの少女のために走った。
いや、少女のためというのはただの自己満足なのかもしれない。
自分の思想は正しいということを他者に認めさせて自分の価値を昇華させたいだけだ。
世の中は自身より他人のことを考えて行動することを美としている。
だから、少年は己のために少女を巻き込もうとしている。
そんなこと、知ってる。
自分は利己主義者だと幼い頃から知っている。
他人の事情など素知らぬ顔をして無視し続けていた。
眼をつぶり、耳を塞ぎ、口を閉ざした。
何も感じないよう、何も触れないよう自制を怠らなかった。
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