無知な少年

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気づけば自分は暗い底にいた。 真っ暗で何も見えない。 明かりもない。 目の前で手を開いても握っても視認できない。 目を閉じているのだろうか。 そう思ったが、まぶたはちゃんと開いている。 見えないならいっそのこと目を閉じてみる。 自然と耳をそばたて周囲の気配を探るが物音一つしない。 かろうじて聞こえるのは自分の心臓の鼓動。 生きている。 そっと胸あたりに触れる。 指先に神経を集中させると微かな動きが感じ取れた。 自分は……生きている。 だが、そこには嬉しさなど一欠けらもなかった。 ましてや安堵の溜め息や笑顔がこぼれることもない。 胸中に空虚な感情が広がる。 それは染みて、滲んでいく。 息が苦しくなる。
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