無知な少年

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意味がない。 このまま生きていても意味がないのだ。 何も思い出せない。 名前も、自分がここにいる意味も。 記憶をなくした自分がここにいて何になるのだ。 思えば、声すらまともに出なかった。 台詞は分かっているのに一つ一つの言葉を押し出さないと音にならない。 言いたいことがあっても言葉が音になる瞬間、解けて消えてしまう。 とっさに声が出なかったのはそのためだ。 撃たれる時に叫んで逃げ出せばよかったのに言葉は崩れ、足は石みたいになって動かなかった。 記憶はない。 声は出ない。 動けない。 名前はなくし、目的もなくした。 自分が ここにいる 理由は 価値は 意味は 皆無。 こんなんじゃ人形みたいだ。 知らぬ間に開いていたまぶたをつぶり、すませていた耳を塞ぎ、声がでない口を閉ざした。
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