無知な少年

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耳をすませば小さな音色が風に運ばれてくる。 幾重にもなった音は広大な高原の伴奏となり壮大さを際立たせていた。 視力と聴力が遠くに行っていたせいで少年は人の接近に気がつかなかった。 「ねぇ」 だから声をかけられたときは心臓が跳びはねるほどびっくりした。 「……もう、こんなところでなにやってんの」 草原を走る風のような軽やかで澄んだ女の子の声。 声をたどると少年は今度こそ心臓が跳びはねた。 「早く帰ろ」 風の一吹きが少女の髪を優雅にたなびかせる。 背中まで伸びた長髪が少年の鼻をくすぐる。 我に返ったときには少女の顔がすぐそばにあった。 「…………」 熱が込み上げてくるのが自分でもよくわかった。
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