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ついに、指先がそれに触れた。
息が苦しくて余裕のない顔でにぃと笑う。
ぎこちなさが残る口元が捕まえた、と動く。
手でしっかりと掴む。
それは驚きを隠せないのか明滅を繰り返している。
点滅の間隔は次第にせまくなり、ついにそれはまばゆい光を放ち、──実体は跡形もなく空気に溶けるように──弾けた。
彼の眼の輝きも奪い去って。
少年はどうっとその場に倒れるように膝から落ちた。
すべて幻だった。
求め続けたものは虚像だった。
実像なんてどこにもなく、ただただ空虚で悲哀に満ちたものだった。
仰向けになった少年の頭を冷たく粘つく手が撫でる。
今までどんなに脆弱になろうともその手だけには抗ってきた。
だが、少年にはそんな力は残っていなかった。
無抵抗な少年を手は笑っているかのように撫で続けた。
少年は暗い海の底へと沈んでいった。
光が射さない深海は冷たく黒い水が纏わり付いて圧力をかける。
黒い水を満たした瞳で上を仰ぐ。
夜空の星の光は少年まで届かない。
少年が縋ったのは遠い過去。
遠退く意識の中、呟いた。
叶うはずが、
なかったんだ、と。
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