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ディスも自分が震えたのを感じる。
だからといってここで立ち止まっていては捕まるだけ。
ディスは恐怖を押し殺して外へ出る。
謎の人物はそれを確認したかのように、客達に向けて煙幕を投げ込んだ。
煙幕が消えかけた時にはもうすでに、謎の人物の姿は見当たらなかった。
ウィンリスとディスは酒場を飛び出し、誰一人と会わずにディスの家に到着。
抱いていたウィンリスを下ろすなり、ディスはコップに水を注ぎ一気に飲み干した。
一安心したかのようにため息と独り言を呟く。
「はぁー・・・危なかった。・・・それにしてもあいつは俺達を助けたのか?それとも偶然か・・・」
酒場でのことをいくら思い返しても、「謎の人物は普通の人間ではない。」ということしか考えれない。
あの時、ウィンリスは尻尾を振ってもいなかった。
なのに、なぜローブの下に何かを隠しているとばれてしまったのか。
それに加えて、目にも見えないほどの速さで旅人を殺しかけた。
声の若さと身長からして、まだ大人にもなっていない男の子だというのだけが分かる。
魔法使いなのではないかということも予想できる。
だが、今この世界では能力を持つ者達は捕まらないために目立つことをしていない。
ディスの頭の中はウィンリスのことよりも謎の人物のことでいっぱいになっていた。
そんな考え込んでばかりいるディスに、ウィンリスはクー・シーの牙で突っついて遊んでいる。
チクチクと何かを感じると思ったディスはウィンリスの手元に目をやる。
「ん?それは何だい?」
問いかけにウィンリスはためらいもなく答える。
「大事な牙。」
「牙? でかい牙だなぁ何の牙だ?」
「クー・シーの」
「?!」
無表情に答えるウィンリス。でもディスは無表情ではいられない。
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