第一楽章

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オレの角は無い。 いや、無くなっていた。 ある朝起きて、いつものように一人で狩りに出掛けたが、一頭の熊でさえ狩るのが困難だった。 そして、仲間に言われてから気が付いた。 「お前“角”はどうした」 オレら、鬼は、死ぬと角が無くなった。 鬼は少しの事じゃ死なないが、その死が訪れると、角が無くなったのだ。 が、オレは生きているのに角が無くなっていた。 角は、怪力や並外れた力の源だと考えられていたから、角が無い今、狩りが出来ないのは納得ができた。 角が無くなるなんてことは考えられないことだった。 それだけでみんなの注目の的だった。 おまけに力もない。 屈辱だった。 オレをバカにしてくる連中と闘うこともできない。 力(=権力)が支配する鬼の社会で、もはや生きる場所はなかった。 しかし、自分で自分の命を絶つことはしなかった。 それは最も不名誉なこととされていたからだ。 それだけは何があってもしないと誓っていた。 となれば、残された道は一つ。 ここを出ることだ。
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