0人が本棚に入れています
本棚に追加
他の鬼がいない世界、それはつまり人間の世界だった。
「オレはそこで生きるしかねぇのか」
出てきた以上、あそこに戻ることはできねぇ。
オレはそう考えた。
山の奥から、道無き道を進んだ。
バカにされたことへの苛立ちと自分の無念さに腹が立ち、樹を薙ぎ倒しながら進んだ。
力が無くなったとはいえ、これくらいの力はあるようだ。
手は黒い血でまみれていた。
暫くして道が開けてくると、ある山小屋が見えた。
あたりは背丈の低い草が一面にあり、何かの動物がいるようだった。
山羊だった。
山羊は鬼に気付くと逃げることも出来ず、固まってしまった。
「おめぇには角があるのか!」
オレは、その巨体を揺らしながら走って行き、山羊の首を鷲掴みにして遠くへ投げ飛ばした。
バキッと音がし、山羊が当たった樹が折れた。
もう、山羊は動かなくなっていた。
「くそっ! 山羊のくせになんで角があんだ!」
その時、あの山小屋から人間が出てきた。
その人間はオレを見ながら歩み寄ってきた。
武器らしきものは無く木でできた棒に頼りながら歩いてきた。
「おめぇ、今の見てただろ。今オレはイライラしてんだよ!」
そう言って拳を振りかざした。
言葉など、通じなくても関係ない。
「そんな愚かなことは止めなさい」
オレは怯んだ。
人間が鬼の言葉を話すとは。
最初のコメントを投稿しよう!