第一楽章

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他の鬼がいない世界、それはつまり人間の世界だった。 「オレはそこで生きるしかねぇのか」 出てきた以上、あそこに戻ることはできねぇ。 オレはそう考えた。 山の奥から、道無き道を進んだ。 バカにされたことへの苛立ちと自分の無念さに腹が立ち、樹を薙ぎ倒しながら進んだ。 力が無くなったとはいえ、これくらいの力はあるようだ。 手は黒い血でまみれていた。 暫くして道が開けてくると、ある山小屋が見えた。 あたりは背丈の低い草が一面にあり、何かの動物がいるようだった。 山羊だった。 山羊は鬼に気付くと逃げることも出来ず、固まってしまった。 「おめぇには角があるのか!」 オレは、その巨体を揺らしながら走って行き、山羊の首を鷲掴みにして遠くへ投げ飛ばした。 バキッと音がし、山羊が当たった樹が折れた。 もう、山羊は動かなくなっていた。 「くそっ! 山羊のくせになんで角があんだ!」 その時、あの山小屋から人間が出てきた。 その人間はオレを見ながら歩み寄ってきた。 武器らしきものは無く木でできた棒に頼りながら歩いてきた。 「おめぇ、今の見てただろ。今オレはイライラしてんだよ!」 そう言って拳を振りかざした。 言葉など、通じなくても関係ない。 「そんな愚かなことは止めなさい」 オレは怯んだ。 人間が鬼の言葉を話すとは。
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