第一楽章

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その村には、人間が一人もいなかった。いや、見えなかったと言うのが正解か。 「鬼が出たぞー!!」 どこかで声がした。 続いて悲鳴が聞こえ、オレから離れるように足跡ができていった。 「食いもんはねぇのか!」 そう言って蹴りあげたのは人間の住居らしき建物の扉。 中の竃には、色の付いた水がかけられていた。 茶色く、泥のように濁っていた。 「こりゃあ食いもんじゃねぇな」 そこを出て他の住居も見てまわったが、食料は無かった。 (牛や豚どころか、鶏すらいねぇなぁ) 幸い、近くの川には魚が数匹いて、それを食べた。 (最後の手段としても人間は食っちゃだめなんだよな) というのも、鬼の世界では有名な話があった。 “ニンゲンカイニデヨウトモ、ヒトハクウベカラズ、フレルベカラズ” 他には、 “オニハニンゲンヲアイスベカラズ” というのもあったが、アイスということがどういうことかまでは分からなかった。 (昔、人間を食った大将は死んじまったらしいし、食うのは止めとくか) 鬼は硬い皮膚で覆われていたが、内側からやられるとダメらしい。
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