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プロローグ
「もうお帰りになるのか」
天の統一国家を治めるマセラ国王は、私的に招待していた魔族、アルス一族の長であるフェシルミア・アルスにそう言った。
明らかに残念そうな声だったことをアルスは聞き逃さない。
「ああ、ご迷惑ばかりをかけて申し訳ない。次はぜひ我がアルス一族へいらしてください。農村ばかりだが、日常を離れ、のんびり過ごすことはいくらでもできる」
「せっかくだが、今回はそのお言葉だけいただいておこう」
天はまだ、人質を取り、身代金ばかりを要求していたアルス一族を完全に信用したわけではないだろう。
いくら水飛竜を救い出し、国王が長を個人的に親しく思っていても、国民感情としてはまだ、国王が魔族の世界に足を踏み入れることには抵抗があるはずだ。
そんなささやかな誤解から亀裂が生じることをもちろん、アルスは望まない。
時をかけてゆっくりと、近づくことができればいいのだ。
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