動き出す『者』と、“浮上《あ》”がり出した『モノ』

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  「おう!女子の大群に襲われないようになー。ハハハッ!」  笑顔で見送る富士を背に、洋一はこの場から全速力で走り出すと、体育学部の校舎と向かい合うかたちで聳え立つ、芸術学部の大きな校舎へと入る。  そして、エレベーターを使わずに階段をひたすら駆け上がり、7階のアニメ・漫画専攻科の入口へと入った。  一つ目の講習が終わる頃。終了のチャイムが鳴った瞬間、芸術学部の乙女(笑)な女子と、明らかに今時の流行を掴んで乗っているようなギャルの大群が、手作りの弁当を片手に、誰よりも先に渡す為に、洋一目掛けて襲ってくる。  それは、洋一にとっては、まさに地獄の始まりで、それから逃れる為に、俊英大学の敷地内を走り回るという日課的なイベント。  ある意味、強制ランニングトレーニングをさせられているようなものだが、洋一にとっては捕まれば地獄なのだから、とにかく全速力で走っては、直ぐに身を隠したりと必死だ。  その女子の大群から身を隠す為に使っているのが、アニメ・漫画専攻科の場所だ。 「はぁ……、はぁ……。ふはぁ……」  アニメ・漫画専攻科の入口で、洋一は両手を膝の上に乗せて息を整えると、周囲を見回して安堵した。  この芸術学部の校舎の7、8階は、全てアニメ・漫画専攻科のフロアとなっている。  このフロアに潜伏していれば、洋一を追い掛ける女子達は来ない。  何故なら、此処は、二次元に全く興味が無い彼女達にとってはとても入り難く、二次元をこよなく愛する生徒達とその空気が、常に満ち溢れている場所だからだ。 「こりゃまた、かなり久しぶりな面だなぁ。よ・お・い・ち・くーんww」 「ッ!!!?」  語尾に付いた、相手を嘲笑する時に使う「ww」の文字と、プレッシャーで押し潰してこようとする、あまりにも聞き慣れた声音。  洋一は、ぎこちない動作でその声がした方へ振り向くと、その声の主を見て顔を引き攣らせた。  
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