動き出す『者』と、“浮上《あ》”がり出した『モノ』

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  「え、恵分[エワカレ]……」 「よぉ、久しぶりじゃねぇか」  黒く洋一のように襟足を伸ばした髪に、首には長い紫色のストールと、モノクロカラーのゴシックパンクの服。  それに、パッチリとした二重の目元には、ビジュアル系バンドを彷彿させるようなドス黒いメイク。  彼女の名は、恵分 望[エワカレ ノゾミ]。北海道からやって来た超売れっ子同人作家。  彼女は、男女人外見境なく、自分好みなら発禁で描く変態系危険腐女子であり、腐女子のレッテル以外は、見た目、性格、口調、全てに於いて男性な洋一の同級生である。  そして、女性が苦手な洋一にとって、普通に接する事が出来る、男の親友みたいな存在だ。 「いやぁ!随分と待ったもんだぜ?オマエから、FLARE[フレア]のイベントの感想が聞けるこの時をなァー」 「う゛っ……」  ──ヤベェ。俺、あの時、森泉さんに拉致られて、イベントを全く見てねぇんだった!どうすりゃあいいんだ……。攻略方法が見つからねェェエ!  洋一は、焦りに脂汗を額から大量に流し、ジリジリと迫り来る恵分から少しずつ後退する。  後退する洋一に、彼女がニヤリッと真っ黒な悪魔の笑みを浮かべ、一気に洋一との間合いを詰めた。 「わ、わかったよ、恵分。  FLAREのイベントは楽しかったぜ。男達がじゃれあってて」 「吐[ぬ]かすなよ?洋一くん。オレには全てお見通しだ。  あの時、そのイベント会場に、オマエは姿を現さなかったんだろォ?」  ドスッ! 「うぐ……っ!」  洋一の胸に、見えない大きな矢印が、一本鋭く突き刺さる。  恵分からの発言に、真実を見抜かれた洋一は、苦しい呻き声を小さく上げる。  これに、彼女が更に黒く嗤い、背中に背負っていたサメのバッグから、漫画の原稿用紙サイズのスケッチブックを取り出した。  
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