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「あー。オレ、何か心当たりあるわ」
「「え?」」
恵分が持っていたパンフレットを翌桧に返し、自分のスケッチブックをサメのバッグに入れてソレを背負うと、フロアの奥へと続く廊下を歩き出した。
「あ、ちょっと待ってよ、恵分ちゃーん!」
これに翌桧が慌てて彼女の後を追い、洋一は少し面倒臭そうに溜め息を吐き出して、少し足早に二人の後を追った。
いつもならば、フロアの奥へと入るにつれて、弾幕はより一層激しく、廊下を歩く人の体を突き飛ばす程の量が飛び交うのだが、今日は完全に見当たらずに、スムーズに進めれる。
普通ではない。
──マジで何かあったのか?
洋一が半ば訝しみ、周囲を警戒して見回しながら歩いていると、前方を歩いていた二人が奥のパソコンルームへと入り、洋一も、彼女達に続いてその部屋に入った。
一台のパソコンの前に、大勢のアニメ・漫画専攻の生徒達が集まって、何かの映像を真剣に見ている。
「おーい、みんな。ちょっとだけオレも交ぜてくんねー?」
突如、恵分が、無表情でヅカヅカと人を掻き分けてパソコンの前へと行くと、この行動に洋一と翌桧は茫然と立ち尽くし、そのパソコンの周囲の様子を見つめた。
すると、恵分の仕業だろうか、そのパソコンからの音量が段々と大きくなり、シャッター音やら人々の喧騒が混ざり合う音の中、微かに男性の咳払いをする声が聞こえてきた。
『っほん』
「洋一、あたし、ちょっと無理だわ」
「え?翌桧?」
翌桧が嫌そうに眉根を寄せ、踵を返して部屋から足早に出ていく。
これに、洋一は半ば訝しみながら彼女の背中を見つめると、再びパソコンの周囲の様子を窺った。
『本日は、お忙しい中、記者団の皆様方にご来場していただき、誠にありがとうございます。
これより、岩動不動[イスルギ フドウ]東京都知事による記者会見を行います』
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