動き出す『者』と、“浮上《あ》”がり出した『モノ』

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   女性のアナウンスの声が流れる中、カメラのシャッター音がより一層騒がしく鳴り響く。 「(岩動都知事?)」  聞こえてきた都知事の名に、洋一は疑問を浮かべていると、パソコンルームの大きなスクリーンに岩動都知事の記者会見の様子が映り出され、早速紫色の文字で、「wwwwwwww」の嘲笑している弾幕が流れた。  間違いない。  恵分が、少し離れた場所に立っている洋一にも見えやすいように、あのスクリーンに記者会見の映像を映したのだ。  洋一が黙ってそれを見つめていると、記者会見の場に用意されていた中心の壇上のもとに、一人のネズミ色のスーツを着用し、大きめの眼鏡を掛けた白髪の老人男性が上がった。 『えー。皆さん、わざわざ私の為にお越しいただいて有り難う。感謝するよ。  今日はね、私が日本の為にやっておきたいと考えている“ある条例”を、日本全国の国民の皆さんにお知らせしておこうと思って、こういった記者会見を開きました』  岩動都知事が口を開いた途端に、「デターーーーwwww」だの、「感謝されたくねーよwwww」だの、「さっさと都知事を辞めちまえよww」だの、沢山のアンチ達が、一斉に打ち込んだ弾幕で映像が埋め尽くされ、都知事の顔が全く見えない状態になってしまった。  その量は凄まじく、まさに巨大な壁があるが如くで、画面上を駆け巡る無数の文字が、都知事の顔なんぞ見たくないとの、アンチ達の意思表示をしている。 「(何で、弾幕で埋め尽くしてんだ?見えねぇじゃねぇかよ)」  そんな彼らの理由が解らない洋一は、文字だらけのスクリーンの映像を、茫然としたまま口を開けて見つめた。 『都知事、その“ある条例”とは何でしょうか?』  一人の若い女性記者の声が聞こえ、洋一は、取り敢えず画面を埋め尽くす弾幕を気にせずに、じっと黙ったまま耳をそばだてる。  
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