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あれから時は経ち、電源が落ちた薄暗く広い室内。
其処の壁には、所々銃弾が跳ね返った跡が生々しく残り、先程まで銃撃戦が繰り広げられていた事を物語っている。
その室内の中心。
大きな窓から差し込む東京の目映いネオンの光が、洋一の顔を照らしていた。
その洋一の顔は、困惑と悲痛が混ぜ重なる複雑なものだった。
洋一は、一人の男の腹の上で馬乗りになりながら、右手に握り締めていたマグナムの銃口を、その男の顔に向けた。
ネオンの光に照らされた彼の顔は、今の季節を感じさせる程に酷く冷たく、とても落ち着いている。
「あんな、金と権力で、全てを支配しようとするハートの小さいジイさんと組むだなんて、正義でも誇りでもない。
それくらい、判っているでしょう?陸斗さん」
「だから何だ?」
複雑な表情で見つめてくる洋一に、陸斗が、平然とした表情で淡々と答える。
「こんなの、警察としての務めを誇りにするあなたじゃないですよ!」
「俺は俺のやり方に従ったまでだ。貴様に言われる筋合いは無い。それ以外に何がある?」
この答えに、洋一は悲痛な目をして陸斗を見つめると、手にしていたマグナムに銃弾を篭め、再び彼に銃口を向けた。
カチャ……ッ
『兼城。アンタ、何してんだよ……?馬鹿な事は止めろよ!』
インカム越しに聴こえる、焦りを滲ませ、静止を求める守政の声音。
「悪いな、守政さん。俺、どうしても陸斗さんの言動が許せないんだ」
守政にそう告げて、洋一は、息を吐き出して陸斗を見据えると、トリガーに掛けていた指に力を篭めた。
彼が死を覚悟し、ゆっくりと瞳を閉じる。
『やめろ、兼城……。
ヤメロォォォオ!!』
──ズギャアァァン……ッ!
──この事件が起こったキッカケ。
それは、今から2ヶ月前まで遡る。
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